地方クリニックこそM&Aを考えるべき理由

この記事でわかること

• 地方クリニックが直面する承継問題とその背景
• 閉院が地域医療やコミュニティに与える影響
• 医業M&Aによる地域医療の継続の可能性とメリット
• 地方での医業承継を成功させるための具体的なアプローチ

地方クリニックの現状
：医師不足と高齢化

後継者不在が全国的な課題に

地方では開業医の高齢化が進み、後継者不足が深刻化しています。そこには、都市部と比べて人口規模が小さく、診療科によっては患者数が限られるため、若手医師にとって経営面での将来性が見えにくいという背景があります。

また、子育て環境や教育、配偶者の就業機会など、生活面の要因も若手医師が地方勤務を敬遠する理由のひとつになっています。そのため、承継候補者を見つけるのが難しく、院長が高齢になっても承継準備が進まないケースが後を絶ちません。

結果として廃業や診療規模の縮小が相次ぎ、地域の医療提供体制に大きな穴が開いているのが現状です。

閉院＝地域の“医療インフラの喪失”

診療所が閉院すれば、その地域は日常的に医療を受けられる拠点を失います。患者は別の医療機関までの長距離移動を強いられ、特に高齢患者や交通手段の限られた患者にとっては通院の継続が極めて困難になります。その結果、慢性疾患の管理が不十分になったり、疾病の早期発見を逸したりするリスクが高まります。

また、診療所は訪問看護や介護施設、薬局との連携を担う「地域包括ケアシステム」の中核でもあります。その機能が失われれば、介護・福祉サービス全体にも連鎖的な影響が及び、地域住民の生活の質も長期的に低下してしまいます。一度失われた医療インフラを新規開業で復活させるのは容易ではなく、その再建には莫大な費用と時間が必要です。

地方こそ「地域医療の継続」が重くのしかかる

“最後の砦”としてのプレッシャー

地方の診療所は近隣に他の医療機関がほとんどない場合も多く、地域住民からの依存度が非常に高い存在です。慢性疾患の管理や健康相談、急病時の初期対応など幅広い役割を担っており、患者や家族からの信頼・期待も大きくなります。

その一方で、院長が年齢や健康上の理由で引退を考えても、「辞めたら地域住民が困る」という責任感・使命感から引退しにくいという事情があります。後継者が決まっていなければ、閉院が住民の生活に大きく影響するため、その決断は精神的にも大きな負担になるでしょう。

診療所＝地域コミュニティの一部

地域の診療所は、地域コミュニティの重要な構成要素でもあります。介護事業者や訪問看護、薬局、行政機関、民生委員などとの密接な連携により、地域住民を支えるネットワークの中心になっているケースも多いでしょう。院長やスタッフも、長年の関わりの中で患者の家族構成や生活背景まで理解しており、単なる医療者と患者以上の関係を築いています。

もし承継されずに閉院してしまえば、この信頼関係や情報共有の仕組みは一気に途絶え、地域医療の質と安定性が大きく損なわれます。こうした「地域のつながり」を守るためにも、承継という選択肢を早めに検討することが重要です。

M&Aは“継続可能な
医療インフラ”を残す手段

閉院よりも地域にとって
プラスとなる選択

医業M&Aによる第三者承継は、たとえ経営体制が変わっても医療サービスを継続できるという点で、閉院よりも地域への影響がはるかに少ない手段です。

新たな経営者が持つ医療資源やノウハウによっては、診療科の追加や診療時間の拡大、ITシステムの高度化など、サービスが向上するケースも珍しくありません。結果として患者の利便性が高まり、医療の質も維持あるいは改善される可能性があります。地域にとっても「医療サービスが途切れない」という大きなメリットがあり、長期的な人口減少傾向にあっても医療インフラが守られる選択肢になります。

院長自身にもメリットがある

医業M&Aによる承継が実現すれば、前院長は引退後も非常勤医師や顧問といった形で地域医療に関わり続けることが可能です。長年にわたって築いてきた患者との信頼関係を少しずつ引き継いでいけば、心理的な負担も軽減されるでしょう。もちろん報酬も得られるため、承継後の生活資金や家族への経済的な安心材料にもなります。

承継を通じて「地域に貢献し続けながら、自分の人生設計も守れる」という二重のメリットは、単なる閉院では得られない大きな魅力です。

受け手は“医療法人”だけではない

複数医師によるグループ化の受け皿も
増えている

医業承継の受け手は、必ずしも単独の医療法人に限られません。近年は以下のようなケースも増えてきました。

• 複数の医療機関を束ねる「医療法人グループ」
• 外部資本を活用した「運営会社」
• 地域の複数の医療機関が連携して引き継ぐ「地域連携型」

こうした受け皿は診療所を存続させるだけではなく、医療機器の共有や専門医の派遣、経営ノウハウの提供など、スケールメリットを活かした運営を可能にします。結果として、単独経営のときには難しかった診療科の追加や診療時間の拡大といったサービス向上につながる場合もあります。

若手医師の地方志向も追い風に

近年は都市部への移住志向が強い若手医師が多い一方で、逆に都市部での激しい競争や生活コストの高さを避け、あえて地方での開業や勤務を志す若手医師も一定数存在します。UターンやIターンによって地方に根ざした医療を提供したいと考える若手にとって、既存の診療所を引き継ぐことは大きな魅力です。

地方における医業M&Aは、すでに患者基盤があり、地域に根づいた信頼関係が構築されているため、ゼロからの開業よりも早く安定した診療を始められるのがメリットです。この流れは地方での医業承継を推進する追い風になっており、地域医療の継続性を高める重要な要素だといえます。

地域との連携で承継を
実現する方法

医業承継をスムーズに進めるためには、地域包括支援センターや自治体の医療担当部署、医師会といった地域のステークホルダーへの早期の相談が大切です。

彼らは地域の医療ニーズや人口動態、住民の声を把握しており、後継者候補探しや広報活動などに広く協力してくれるはずです。

また、スタッフや患者への丁寧な説明も不可欠です。突然の承継発表は不安や混乱を招くため、段階的な情報共有によって理解と納得を得ながら進めることが肝要です。誠意をもって対話を重ねることで、承継後も変わらずに信頼関係を維持できるでしょう。