医業M&Aと廃業の判断軸
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この記事でわかること
- 医院を廃業する場合に必要な手続きや負担
- M&Aによる承継のメリットと進め方
- 廃業とM&Aの費用・手間・影響の比較ポイント
- M&Aが向いている医院・向いていない医院の特徴
クリニックの出口戦略:
廃業かM&A(承継)か?
深刻化する後継者不在と、今M&Aが選ばれる理由
日本における開業医の平均年齢が上昇している点に加えて、後継者不足が深刻化しています。かつては、「医師の息子や娘が医院を継ぐ」ということが一般的とされてきましたが、現在ではキャリアの多様化などの影響によって、親族内での承継が難しいケースが増えている点が、親族外承継へのシフトが行われている理由のひとつといえます。
またクリニックがなくなるということは、特に地域医療の空白(無医村化)につながる場合もあります。このような背景から、M&Aは地域住民にとって重要な医療体制を維持するための、有力なバトンタッチの方法として用いられています。
そもそも廃業とはどういう手続きか
一般企業とは異なり、医院の廃業は医療機関ならではの手続きが必要です。
まず、所轄行政に対する「廃止届」の提出や、保険医療機関・診療報酬に関する指定取り消し、医療機器や薬品の処分、カルテの保管対応などが求められます。さらに、医師会や関係団体との関係整理など業界特有のフローも多く、それらは想像以上に煩雑です。
スタッフの解雇手続きや退職金の支給など、雇用に関する整理も同時並行で進めなければならず、経営者である院長にとって大きな精神的・事務的負担を伴う選択肢といえるでしょう。
クリニックを「畳む(廃業)」ことの経済的・社会的リスク
クリニックを廃業する場合には、建物の原状回復工事や医療機器の処分、スタッフへの退職金を支給するといったように、規模によっては数百万円から1,000万円を超える持ち出し費用が発生する可能性があります。また、長年通院してきてきた患者は新たな転院先を探すことが必要になりますし、クリニックで働いてきてくれたスタッフが職を失うことになります。これまで地域医療に貢献してきた院長にとっては、廃業はこのような心理的・社会的な負担を伴う重い決断であるといえます。
M&Aを選ぶと何が変わるのか
M&Aによる事業承継では、診療機能を地域に残したまま院長が引退できるというメリットがあります。
医院の経営母体が引き継がれることでスタッフの雇用が継続され、患者も変わらず通院できるという安心感があります。また、不動産や医療機器といった経営資産の承継も可能で、物理的にも診療体制が保たれます。
M&Aは仲介会社のサポートが入ることで、手続きも比較的スムーズに進められるため、院長が現場に立ちながらでも段階的に移行できます。
どちらも「院長のゴール」次第
廃業とM&A、どちらを選ぶべきかは「院長自身がどのような引退を望むのか」によって変わってきます。「きっぱりと閉院して自由な時間を持ちたい」という方もいれば、「これまで築いてきた医院や地域医療を未来につなげたい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
重要なのは、経済面や手続きの負担だけではなく、自身の価値観や人生設計に照らして、より良い選択肢を見極めることです。
【徹底比較】廃業コスト vs M&Aの譲渡利益
廃業にかかる費用:原状回復・退職金・医療機器処分で1,000万円超も
廃業を選択した場合には、さまざまなコストが発生します。例えば、建物を借りる前の状態に戻す原状回復費用が発生するほか、スタッフへの解雇予告手当や退職金、医療機器の廃棄やリース契約の残債一括返済、医療用廃棄物の処理費用などがかかってきます。
特に医療法人が廃業するケースでは、法人の解散や精算に伴う手続きとして、弁護士や司法書士への報酬、登記費用といったコストも加算されることになります。このようなコストは院長の持ち出しとなるため、リタイア後の生活資金を大きく削ってしまう大きな要因となります。以上から、廃業の選択は単純に看板を下すだけではなくさまざまなコストがかかってくる点に注意が必要です。
M&Aで得られる利益:資産価値 + 営業権(のれん)の仕組み
M&Aを選択した場合には、上記のような廃業コストを回避できる点に加えて、譲渡対価を得られる可能性があります。クリニックの評価額は「時価純資産+営業権(修正利益の2〜5年分)」という計算式で算出されることが一般的です。
この式からもわかるように、評価額は機器や現預金など「目に見える資産」に加えて、地域での評判や患者基盤といった「目に見えない価値」が営業権として評価されます。
また買い手が借入金を引き継ぐ形を取ることによって、売り手である院長は個人保証から解放されるというメリットもあります。
実例シミュレーション:手元に残る資金の圧倒的な差
年間の利益1,000万円のクリニックがあったとします。
例えば廃業を選択した場合、原状回復に400万円、スタッフ3名の退職金等に300万円、法人精算に100万円かかったとすると、最終的な手残りは「-800万円」の赤字となります。一方、M&Aで営業権を利益の3年分(3,000万円)と評価され、時価純資産が1,000万円あった場合位には、譲渡所得税を20%引いたとしても手元に3,200万円が残ることになります。
実際の金額は状況により異なりますが、このように廃業を選択した場合とM&Aを選択した場合には、最終的な手残りに大きな差が出てきます。
ステークホルダー(関係者)への影響の違い
スタッフの雇用:解雇か、継続雇用か
廃業を選択するということは、スタッフ全員の解雇を意味しますが、M&Aを選択した場合には、原則としてスタッフの雇用は継続されます。買い手にとっては、クリニックでの業務に精通したベテランスタッフは、「即戦力」という大きな資産であり、継続を望むケースがほとんどであるといえるため、これまでクリニックを支えてくれたスタッフの技術を自世代に繋げることが可能となります。
患者様への責任:通院先の断絶か、診療の継続か
患者への対応も大きく変わってきます。廃業した場合には、患者に対しては紹介状の作成のみしかできません。新たな医療機関に通わなければならないということは、人にとっては大きな負担となるか可能性も考えられます。
対してM&Aでは、カルテや検査データなどがそのまま引き継がれ、患者は通い慣れた環境で治療を継続することができ、患者への負担を抑えられるメリットがあります。
院長自身のセカンドライフ:負債整理か、ハッピーリタイアか
院長自身も、廃業後は残務整理や負債の返済に追われてしまい、心身ともに疲弊した状態で引退生活に入る可能性もあります。対してM&Aは譲渡益を得られれば、経営のプレッシャーから解放された状態で豊かな老後を送れる可能性を高められます。場合によっては、若手医師の育成など新しいことへの挑戦を始めるといった選択肢も考えられます。
M&Aの方が向いているケース
/向いていないケース
M&Aが向いているのはこんな医院
まずは「立地が良い」ことです。
都市部や交通アクセスに優れた場所の医院は、承継後も集患しやすく、買い手のニーズも高まります。そして「患者数が安定していること」も重要です。特定の疾患・診療科に偏らず、一定の地域密着型診療を行なわれていれば、後継者も運営を引き継ぎやすくなります。
また、「スタッフが安定していること」も評価のポイントです。
経験豊富なスタッフが残れば引き継ぎも円滑に進み、患者との信頼関係も維持されやすくなります。さらに、過疎地であっても地域の医療ニーズが高ければ、公的支援や地元自治体の協力を得られるケースもあり、M&Aも前向きに進みます。
M&Aが難しいのはどんなケースか
M&Aの実現が難しいケースの筆頭は、極端な赤字経営が続いている医院です。
継続性が見込めないと判断されれば、当然ながら買い手もつきません。また、診療内容が特殊すぎる場合や、地域に後継候補となる医師がまったくいない場合も承継は難航します。
また、高度な専門医療に特化している医院のケースです。
後継者が同レベルの医療水準で引き継ぐのが困難であれば、患者の離脱が懸念されることからM&Aも難しいと言わざるを得ません。
準備で変わることもある
医院の現状がそのままM&Aの成否を決定づけるとは限りません。
赤字経営でも経営改善を行ない、財務状況を整理することで、数年後に買い手が現れるケースもあります。また、診療・経営に関する書類や設備、スタッフの体制などを整理することで、買い手からの「見え方」が大きく変わり、評価が高まることもあります。
M&Aは「今すぐ売れるかどうか」だけではなく、「どう準備するか」によって選択肢が広がるプロセスです。将来的な承継を視野に入れ、早い段階から専門家に相談して整備を進めていくことが成功のカギを握っています。
自院の価値を過小評価しない
「うちは建物が古いし、利益も少ないから買い手がつかない」と判断して廃業を急ぐのは尚早です。若い買い手候補の医師が求めているのは、最新の設備ではなく、先生が長年かけて築き上げた「患者さんとの信頼関係」という目に見えない資産。
建物や医療機器は後から更新できますが、地域における知名度や「かかりつけ」としての地盤は、一朝一夕に作れるものではありません。自院の価値を正しく認識し、可能性を専門家に診断してもらうことが大切です。
「うちのクリニックでも売れる?」
売却の判断基準
古い内装や赤字経営でも承継(M&A)が可能なケース
もしクリニックの内装が古かったとしても、立地がよく安定した患者数が確保されているケースであれば、買い手は「リフォームすればより高収益が見込める」と判断することもあります。そのほか、帳簿上は赤字でも、役員報酬等の足し戻しを行った「修正利益」が実質黒字だった場合には、評価の対象となります。このように古い内装や赤字経営だった場合でも、承継(M&A)が可能なケースもあるため、安易に諦める必要はないと考えられます。
地方・過疎地こそ求められる「第三者承継」のニーズ
地方はゼロからの集患は難しいといえます。だからこそ、すでに患者基盤がある承継案件は若手の医師にとって魅力的です。さらに行政が無医村化を防ぐ目的で支援を行っているケースも見られます。このように、地方での医療存続は社会的なニーズが非常に高いため、適切なマッチングを行えれば、年以上に高く評価される可能性も期待できます。
買収を検討する「譲受側(買い手)」の視点とメリット
主に若手医師や医療法人など、買い手の目的は「開業コストの抑制」と「リスクの低減」です。新たに開業する場合には、クリニックの建築費や採用・広告費などさまざまなコストと時間が必要になりますが、承継を行った場合にははじめから収益が見込めるという大きなメリットがあります。既存の患者数やスタッフの質についてあらかじめ把握できるため、不確実な「掛け」を行う必要がなく、着実な経営拡大を目指せる点が魅力となります。
実際の相談から見えてきた
判断軸
後悔しないための3つの視点
廃業かM&Aかを検討する際に意識したいのが、「経済面」「精神面」「時間軸」という3つの視点です。
経済面では、廃業に伴う原状回復費用や退職金、M&Aによる譲渡対価など、金銭的な収支を比較する必要があります。精神面では、患者やスタッフに対する責任や、これまで築いてきた地域との関係性をどう引き継ぐかという点が問われます。
そして、時間軸では「今すぐ引退したいのか」「数年後でもいいのか」といったライフプランとの整合が重要になってきます。この3つを整理することで、自身にとって後悔のない選択肢が見えてくるはずです。
一人で結論を出さない
最終的な決断は院長自身のものですが、一人で抱え込む必要はありません。税務や法務、医業経営の専門家のアドバイスを受けることで、自分だけでは気づけなかった選択肢が見えることもあるからです。
「赤字だから無理」と思っていたが改善余地があるとわかったり、地域に買い手はいないと決めつけていたが遠方から買い手が現れたり、というケースもあります。
判断に迷ったときは、まずは信頼できる専門家に相談してみることをおすすめします。
理想のイグジットを実現する「経営の磨き上げ」
売却の3年前から始める「イグジット経営」のススメ
クリニックの売却を検討する場合には、直前に慌てて売るのではなく、3年ほど前から準備を進めることが推奨されます。具体的には、コストの削減や不採算な診療時間の見直しなどを行うといったように、売却を見据えた「クリニックの磨き上げ」を行っていくことにより、決算書の利益を最大化させます。このように計画的に不採算部分の改善を行い、最高値でバトンを渡すことが大切です。
評価額を最大化させるための財務・労務の整備
就業規則の適正化や、未払い残業代の清算を行うといったように、労務リスクをゼロに近づけます。さらに、属人化の排除も必要であるため、業務のマニュアルを作成することによって誰が運営しても同じ品質での医療が提供できるように対応していきます。このような対策を行い、譲渡価格の向上を目指せます。
信頼できる仲介会社・アドバイザーの選び方
クリニックのM&Aを行う際には、信頼できる仲介業者やアドバイザーを選択することも、非常に重要なポイントとなります。仲介会社やアドバイザーを選定する際には、まず医療業界特有の法務や行政手続に詳しいかどうかを確認します。さらに、単にマッチングを行うだけでなく、院長の心情に寄り添いながらM&Aを進めていけるパートナーを選択することが大切です。
医院の廃業とM&Aは、それぞれに異なる手続きや影響があります。M&Aは経済的・社会的負担を軽減し、地域医療を継続できる手段として注目される一方、廃業には煩雑な処理や周囲への影響が伴います。自身のライフプランや医院の状況をもとに、経済面・精神面・時間軸の3視点から判断し、信頼できる専門家とともに最適な選択を目指すことが大切です。

SAコーポレーション
12年クリニック運営を経験し、その後M&Aを行った宮﨑医師が、自分自身の経験をもとに、「医師が満足できる、幸せになれる医業承継を実現したい」とSAコーポレーションを設立。
十分な準備期間を経て、クリニックの価値を上げたうえで行うM&Aを提唱し、その情報発信やサポートを行っています。


