小児科クリニックの医業承継のポイントと事例
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この記事でわかること
- 小児科クリニックの医業承継における固有の課題と成功のポイント
- 親子・家族単位の信頼関係をどう承継に活かすか
- スタッフの安心感・継続性が患者維持に与える影響
- 後継医師の地域ネットワーク構築と信頼形成の方法
小児科の特徴
「院長=ブランド」になりやすい
親世代が診療方針を選んでいる
小児科は、患者本人ではなく保護者が診療方針を選ぶ診療科です。
特に母親の視点で「話をよく聞いてくれるか」「説明は丁寧か」といったポイントが評価されやすく、医師の人格がそのまま「かかりつけ医」としての信頼に直結します。そのため、院長交代時には「この先も通って大丈夫か?」という不安を招きやすくなるのです。
口コミの力が大きい
保育園や小学校など、地域の子育てコミュニティの中では口コミがクリニック選びに大きく影響します。「先生が優しい」「注射が上手」などリアルな声が広まりやすく、それだけに評価の維持には信頼の継続が欠かせません。
承継時にこうしたネットワークが崩れると、患者離脱につながる可能性が高くなるため注意が必要です。
「ブランド」をどうバトンタッチするか
医師が交代する際には、「新しい先生はどんな人か」「診療スタイルは引き継がれるのか」といった情報を早めに発信することが重要です。
前院長との連名の挨拶状や、後継医師の写真付きプロフィール掲示、紹介文書の配布などは信頼の「橋渡し」になります。患者と保護者に安心感を与える工夫が、院長というブランドの引き継ぎには不可欠です。
“親世代との信頼”をどう可視化・共有するか
親子での通院データを整理する
小児科は兄弟姉妹で通院する可能性が高く、「上の子もお世話になったから」という信頼の蓄積が来院の動機になります。
こうした背景を引き継ぐためには、兄弟姉妹関係を含めた家族単位の診療・健診データや疾患の経過記録を整理し、後継医師にもわかりやすく引き継げる状態にしておくことが重要です。「この家族とはどんな関係性か」を把握できる台帳づくりは、信頼を継続させる第一歩です。
予防接種スケジュール管理
子どもの成長に合わせて進む予防接種は、小児科の継続診療における中核的な業務です。
ワクチン台帳やスケジュール表を整理して接種済み・今後予定の一覧を明示しておくことは、承継後の混乱を防ぎ、保護者に安心感を与える材料にもなります。接種漏れの防止や次回案内の引き継ぎを徹底することで、診療の質も保てます。
地域連携や学校とのつながり
小児科は地域との接点も多い診療科です。保育園や幼稚園、小学校との連携、地域行事への参加、自治体とのやり取りなど、院長の「顔」で築いてきた関係性は見えにくい資産ともいえます。これらを文書化し、誰とどのように連携してきたのかを記録しておくことで、後継者も地域との信頼関係を自然に引き継げます。
スタッフの存在が安心材料になるケース
受付スタッフの顔の安心感
小児科の場合、受付スタッフの存在そのものが「通い続ける理由」になるケースも実は少なくありません。
特に長年勤務しているスタッフがいると、「○○さんに相談すれば安心」「先生が変わっても、受付が顔なじみで気を遣ってくれる」といった声が多く聞かれます。日常のちょっとした声かけや世間話が、保護者との信頼関係を支えているということです。
看護師の声かけ・育児フォロー
注射や検査に対して子どもが不安を訴えたとき、看護師の落ち着いた対応や優しい声かけが保護者の安心につながります。また、診察前後の待ち時間で育児相談に乗ったり、生活習慣についてさりげなくアドバイスしたりする姿勢も、小児科ならではの大切な役割です。
こうした対応は「スキル」というよりも「経験」「人柄」による部分が大きいため、言語化してマニュアル化することで承継しやすくなります。
スタッフへの承継教育
院長の交代によってスタッフが感じる不安を最小限に抑えるためには、後継医師との面談や診療方針の共有が欠かせません。
たとえば、「どんな患者対応を重視しているか」「どこまでスタッフに任せてもらえるのか」といった基本的な考え方をあらかじめ共有しておけば、現場の混乱も防がれ、スタッフの安心感も高まります。スタッフが安心して働ける環境が保たれれば、その空気感が患者と保護者にも伝わり、患者離脱の抑制につながるのです。
引き継ぎ時のアナウンスの工夫
親世代に伝えるタイミング
小児科では、保護者と直接話せる機会が定期的に訪れます。
特に予防接種や乳幼児健診は、保護者が診察室に入る貴重なタイミングです。こうした場面を活用すれば、承継について無理なく伝えられます。定期的な通院の患者も同様で、自然な形で周知していくことが望まれます。
親御さんが安心する伝え方
保護者が気にするのは、「診療の内容が変わらないか?」という点です。
したがって、「このまま通い続けて大丈夫か」「うちの子をわかってくれるか」といった継続性への不安を払拭しなければなりません。そのため、「診療方針は変わりません」「これまでの経過も共有しています」といった安心材料を明確に伝えることが大切です。口頭だけではなく、紙面での補足やスタッフからのフォローも効果的です。
院内掲示・お手紙の事例
クリニックによっては、引き継ぎに関するアナウンスをポスターやリーフレットで行なうケースもあります。待合室に掲示したり、受付でレターを手渡したりと、複数の手段で伝えることで見落としを防げます。
特にレター形式であれば、持ち帰ってじっくり読んでもらえるため、「伝えたつもり」にならない工夫として有効です。さらに、新院長の顔写真やプロフィールを添えるなど、顔が見える伝え方を意識するとより安心感につながります。
承継しやすい体制づくり
属人性の強みを仕組みに落とす
小児科は院長の人柄や診療スタイルが「安心感」そのものになっていることが多く、属人性が強くなりがちです。承継を見据えるなら、その強みを言語化・マニュアル化していくことが欠かせません。
たとえば、初診時の問診の流れや保護者への説明スタイル、子どもへの声かけの工夫などを整理しておけば、後継医師にもその空気感が伝わりやすくなります。
スタッフとの分業を再設計
小児科は親子で来院するケースが圧倒的に多く、診察後の相談が長引くこともしばしばあります。そんなとき、スタッフが育児相談や生活習慣のアドバイスを担える体制を整えておくと医師の負担を軽減できます。
承継をスムーズに進めるためにも、スタッフの役割分担を見直し、どこまでを医師が、どこからをスタッフが担うかの線引きを明確にしておくことが大切です。
後継医師の地域お披露目の場を作る
親しみや信頼というものは、まずは顔を合わせることから育まれます。特に小児科は地域の保育園や小学校との関係性が深いため、後継医師が地域の行事に参加したり、学校関係者と面談する場を設けたりすることが効果的です。
「新しい先生はこういう人」だと知ってもらうことで、保護者の不安が和らぎ、地域の中でも自然と信頼が広がっていきます。こうした「顔の見える承継」が、患者離脱を防ぐ一助になります。
小児科における
第三者承継の成功例
65歳での勇退を目途に
早期から承継準備を
始めた例(東京)

小児科医
運営年数30年、メディカルビル内の小児科クリニックの院長は後継者がいないため、60歳を過ぎた頃から第三者承継を検討し、65歳での勇退を目途に承継準備を開始。
小児科専門のため、買い手候補が少ない。
メディカルビルに入っているため、診療科の変更が難しい。
希望する譲渡価格が相場よりやや高い。
医業M&A仲介会社と以前から付き合いのある医療法人の経営者から、独立を検討している小児科医師を紹介してもらえた。候補先が投資回収期間から算出した譲渡価格と、希望する譲渡価格に差があったが、根気よく調整を行った結果、無事に譲渡できた。
指導と引継ぎ期間を設けて承継に
成功した例
(東京)

小児科医
30年、かかりつけ医として愛されてきた小児科の院長は、70歳を超えて体に不調を感じるようになり、診療を続けるのが不安になった。自分が倒れたら患者さんたちに迷惑がかかるため、元気なうちに第三者承継を決意。
木造住宅の2階に住み1階で診療を行うスタイルのため、1階の診療スペースを譲渡する形になる。
地域医療を長年担ってきたことから、承継後も内科と小児科両方の診療を希望。
候補先の医師は内科の勤務医で、小児の経験は外傷の診療程度。院長を交代する前に「内科医として勤務を続けながら、非常勤医師として指導を受ける」方法を選択。承継後は前院長が週1回程度非常勤医師として診ることにしたため、引継ぎがスムーズにできた。
小児科クリニックの承継では、院長の人柄や診療スタイルが「安心」の中心であり、親子・地域との信頼関係が資産そのものです。成功には、診療方針や対応の属人性を言語化し、スタッフや保護者との関係を丁寧に引き継ぐ姿勢が求められます。後継者の顔が見える取り組みが、患者離脱を防ぐ鍵となります。

SAコーポレーション
12年クリニック運営を経験し、その後M&Aを行った宮﨑医師が、自分自身の経験をもとに、「医師が満足できる、幸せになれる医業承継を実現したい」とSAコーポレーションを設立。
十分な準備期間を経て、クリニックの価値を上げたうえで行うM&Aを提唱し、その情報発信やサポートを行っています。
