地域医療の空白化と、第三者承継の役割
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この記事でわかること
- 地方診療所の廃業が地域医療に与える深刻な影響
- 後継者不在と診療所廃業の全国的な現状と背景
- 第三者承継によって医療サービスを継続する方法
- 自治体・医師会と連携した地域ぐるみの承継支援策
地域医療の空白=住民の命に直結する問題
“1軒の廃業”が地域全体に与える影響
高齢化が進む地域では、近隣の診療所が閉院すると住民は徒歩や公共交通機関で通える医療機関がなくなり、通院手段を持たない高齢患者が医療から遠ざかるリスクが一気に高まります。移動距離が長くなれば通院の継続が難しくなり、慢性疾患の悪化や予防医療の機会損失にもつながります。
もしその診療所が訪問診療や終末期医療も担っていたとしたら、介護現場や救急搬送の負担も急増し、地域全体の医療・福祉サービス体制にひずみが生じます。“1軒の廃業”が地域全体の健康インフラを揺るがす、これが地方の現実です。
都市部にはない「医療アクセスの脆さ」
地方の診療所は、その地域で唯一の外来医療や救急対応の拠点であることが珍しくありません。都市部のように徒歩圏内に複数の医療機関が存在する環境とは異なり、代替機能がなければ閉院が医療アクセスの断絶をもたらします。
また、診療所が地域住民の健康相談窓口や見守りの役割を果たしているケースもあります。こうした生活インフラとしての機能が失われると、地域住民の安全や安心感そのものが損なわれます。だからこそ、承継による存続は単なる経営判断ではなく、地域住民の生活を守るための施策といえるのです。
診療所の廃業件数と
後継者未定率の現実
年々増加する廃業と、その背景
厚生労働省の統計によると、近年は後継者不在による診療所の廃業件数が右肩上がりに増えています。特に地方では開業医の高齢化が顕著であり、70歳を過ぎても診療を続ける院長が少なくありません。しかし、体力的・精神的負担の増加やスタッフ確保の難しさが、経営継続の限界を早めてもいます。
また、医療制度の改革や診療報酬のマイナス改定による収益の圧迫、設備更新による財務的負担など、さまざまな要因によって「続けたくても続けられない」状況に追い込まれるケースも多く見られます。そのような背景が、地域における医療の持続性を脅かしているといえます。
「うちだけの話」ではなく、
全国的な課題
診療所の後継者未定率は、都市部・地方を問わず高い水準で推移しています。帝国データバンクの調査(※)でも、全国的に後継者が決まっていない事業者の割合は5割を超え、その中には医療機関も多く含まれると思われます。
開業医が1人いなくなるだけで、その地域の医療提供体制は大きく揺らぎます。外来診療の受け皿が減れば患者は他の地域に流出し、そこの医療機関の負担が増加するほか、救急搬送や訪問診療の対応範囲が広がるなど、エリア全体の医療従事者の疲弊にもつながります。この状況は個々の医院の課題ではなく、社会全体で解決すべき重要なテーマです。
第三者承継という
“医療をつなぐ”選択肢
「家族が継がない」=閉院とは限らない
かつては、医院を継ぐのは医師家系の親族というのが一般的でしたが、現在はその前提が大きく変わりつつあります。実子や親族が医師ではなくても、他の医師や医療法人への承継によって診療を続けることは十分に可能です。
大切なのは、「誰が継ぐか」よりも「どのように引き継ぐか」です。早急に意志を固めて診療や経営の情報を整理しておくことで、親族以外の第三者でもスムーズな承継を実現できます。閉院を避けて地域医療を守るために、広く選択肢を持つ発想が求められます。
第三者でも医療・理念を引き継ぐことはできる
医業M&Aにおける第三者承継の事例では、院長の交代後も診療内容やスタッフの体制、さらには医院の理念や診療方針がそのまま受け継がれているケースが少なくありません。
その理由は、承継前の段階で「仕組み化」がなされているからです。診療を含む業務マニュアルや患者台帳、スタッフの役割分担や研修制度などを整えておけば、院長が変わっても医院の組織文化や雰囲気を維持できます。
こうした事前準備は、医療機能の継続だけではなく、患者やスタッフに安心感を与え、地域の信頼を守りながら次世代にバトンを渡すことにもつながります。
自治体・医師会との連携
という可能性
地域ぐるみで「承継」を支援する仕組み
近年は自治体や医師会が主体となって、診療所の第三者承継を支援する取り組みが広がりつつあります。
たとえば、福島県医師会では「医業承継バンクマッチングナビ」を運営し、後継者を探す開業医と開業希望の医師を結び付ける仕組みを提供しています。移住支援や開業補助金などの誘致制度と組み合わせることができれば、承継のハードルは大きく下がるでしょう。
また、地域医師会のネットワークを活用した医業M&Aや、法人グループによる運営引き継ぎの事例も増えており、「地域ぐるみ」で承継を実現する動きが着実に進んでいると思われます。
行政・地域包括ケアとの連携で
「継続性」を担保
承継を単なる事業の引き継ぎではなく、地域医療の確保として捉える視点も重要です。特に高齢化が進む地域では、医療と介護の連携体制が不可欠です。地域包括支援センターや介護事業者との協力により、承継後も患者や利用者へのサービスが途切れない仕組みを構築できます。
また、厚生労働省が提唱する「地域医療構想」との整合性を持たせた承継計画は、行政からの支援や助成を受けやすいと考えられます。こうした連携は経営の安定だけではなく、地域の医療インフラを長期的に守る大きな力になります。
後継者がいなくても道はある
閉院か承継かは、自分で選べる時代へ
お伝えしてきたとおり、近年は親族以外への第三者承継や医療法人への引き継ぎなど、さまざまな選択肢が広がっています。
都市部から地方に移住して診療を続ける医師の例もあり、今や「後継者がいないから廃業する」という一択の時代ではありません。早めに情報を集め、3年程度を目安に現状整理、経営改善、候補者探しまでを計画・実行できれば、患者やスタッフの生活を守りつつ、開業医として自分らしい幕引きを設計できます。
「続けるべき医療を残す」という視点で動けば、地域社会にも自分自身にも納得のいくゴールを描けるのではないでしょうか。
大切なのは“誰に託すか”ではなく
“何を託すか”
医業承継で本当に引き継ぐべきは、医院がこれまで守ってきた理念や、患者・スタッフとの信頼関係です。
これらは財務データや医療設備以上に、地域にとってかけがえのない資産といえます。その価値を後継者に確実に引き継ぐためには、自院の強みや診療スタイル、地域で果たしてきた役割を丁寧に棚卸しし、言葉や数字で見える化しておくことが欠かせません。
こうした準備が整っていれば、たとえ院長が変わっても診療の“軸”は揺らがず、地域住民の安心と信頼を未来につなぐことができるはずです。
高齢化と後継者不在により、地方の診療所では廃業が増加し、地域医療が空白化する深刻な問題が進行中です。こうした状況を打開する手段として、親族以外への第三者承継が注目されています。経営や診療の情報を「見える化」することで、理念や信頼関係を含めた継続的な医療提供が可能になります。自治体や医師会との連携も進んでおり、早期の準備と柔軟な発想が、地域医療の未来を守る鍵となるでしょう。

SAコーポレーション
12年クリニック運営を経験し、その後M&Aを行った宮﨑医師が、自分自身の経験をもとに、「医師が満足できる、幸せになれる医業承継を実現したい」とSAコーポレーションを設立。
十分な準備期間を経て、クリニックの価値を上げたうえで行うM&Aを提唱し、その情報発信やサポートを行っています。
