訪問診療・在宅医療クリニックの医業承継のポイントと事例
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この記事でわかること
- 訪問診療クリニックにおける承継時の信頼関係・連携体制の重要性
- チーム医療や家族対応の属人性を引き継ぐための工夫と準備
- オンコール体制の負担軽減と承継リスクの乗り越え方
- 非常勤医師や訪問看護ステーションなど外部パートナーとの契約整理のポイント
訪問診療・在宅医療の特徴
家族や担当チーム・施設との
連携と信頼関係が重要
在宅医療は信頼ベースが命
訪問診療では、患者本人だけではなく、その家族や入所先介護施設との信頼関係が診療のベースになります。
特に「主治医が変わると対応も変わってしまうのでは」といった不安は、個人宅でも施設でも共通してみられます。こうした懸念を放置すると、承継後に患者離脱が相次ぐ可能性があります。後継医師の紹介や関係者への丁寧な説明など、信頼のバトンを渡すための準備が欠かせません。
チーム医療の属人性を減らす
訪問診療では、ケアマネージャーや訪問看護師との連携が不可欠です。しかし、こうした連携は担当医との人間関係に大きく依存しがちです。
後継者がスムーズに引き継ぐには、やり取りを個人対応からチーム対応に移行し、カルテ共有や連絡履歴の記録など、情報を「見える化」する仕組みが必要です。医師が変わっても連携を機能させる体制づくりが、安定した承継のカギとなります。
患者層の整理と引継ぎ準備
訪問診療は患者本人との契約が基本ですが、実際は家族や施設職員との連携が不可欠です。したがって、患者ごとの診療内容だけではなく、家族や施設との連絡体制も含めた「ネットワーク」を整理しておくことが大切です。
契約書類のほか、ケアマネや訪問看護事業所との連携状況・連絡先を一覧化しておけば、後継医師の不安を軽減できます。
非常勤医師・連携事業者との契約整理
非常勤医師のモチベーション
訪問診療における非常勤医師の存在は、診療体制を支える重要な柱です。承継の際は、これまで勤務していた非常勤医師が引き続き勤務できるかどうかが大きなポイントになります。
勤務条件や報酬体系を事前に整理し、後継者とすり合わせておけば、継続勤務への安心感につながります。承継に対する不安や疑問があっても、丁寧な対話によって納得してもらえれば働くモチベーションを維持してくれるでしょう。
訪問看護ステーションなどの連携先
訪問看護ステーションや調剤薬局、ケアマネージャーなどとの連携の状況は、在宅医療の質そのものです。承継時には外部の事業者との契約書など関係書類を整理するほか、共同カンファレンスの開催状況や情報共有の仕組みを引き継ぐことが重要です。
すでに信頼関係が構築されているなら、後継者の紹介を通じて円滑な橋渡しを行なうことで、連携の質を落とさずに継続できるはずです。
施設契約の整理
訪問診療では、複数の介護施設と契約を結んでいるのが一般的です。その契約内容を整理し、訪問頻度や訪問時間、連絡窓口などをリスト化しておけば、承継時の引き継ぎがスムーズになります。
そのリストは施設スタッフとの信頼関係の構築にも役立つため、現地への挨拶回りも想定して作成することをおすすめします。
オンコール体制の承継リスクと工夫
オンコール負担が買い手に
敬遠されやすい
訪問診療において、夜間や休日のオンコール対応は医師の大きな負担になりがちです。この負担が買い手にとってネックとなり、承継が進みにくくなるケースも見られます。
特に常勤医師が少ないクリニックの場合、院長だけに負担が集中する状況が敬遠される要因になります。事前にオンコール体制や負担の状況を明示し、改善の余地があることを伝える工夫が必要です。
夜間対応の分担方法を整える
オンコール体制の改善の一環として、夜間対応の分担を見直すことで後継候補の不安を軽減できます。たとえば、複数の医師による交代制や、外部のコールセンターに一次対応を任せる体制なども有効です。
また、夜間対応の頻度や実績をデータ化し、実際の負担を見える化することで誤解を防ぎやすくなります。こうした具体策を提示できれば、承継のハードルも下げられるでしょう。
勤務医のオンコール負担感を下げる
オンコール負担の分散は、勤務医の離職防止にもつながります。人員配置の見直しに加えて、電子カルテ連携アプリやグループチャットなどのICTツールを活用することで、オンコール中でも対応の効率化が図れます。
過去の対応例や判断基準のマニュアル化によって、個人の判断負担を減らす工夫も効果的です。こうした体制整備が、持続可能な訪問診療の運営につながります。
“患者ではなく家族との信頼”をいかに引き継ぐか
家族向けの引継ぎ説明会
訪問診療では患者本人よりも家族との信頼関係が中心になるケースも多く、承継時もその点が非常に重要です。後継医師を紹介し、これまでと変わらない方針で診療が続くことを説明する場として、家族向けの説明会を設けることが効果的です。
可能であれば前院長も同席し、安心感を持ってもらえるような工夫が望まれます。
患者家族の相談窓口を継続
日常的に家族からの相談を受けている場合、その対応を承継後も維持できるかどうかが信頼継続のカギになります。
医師、スタッフの誰がどのように対応しているのかを整理し、後継者に共有しておくことで、対応のずれや混乱を防げます。相談対応フローを明文化し、スタッフ間で共通認識を持つことも有効です。
訪問看護・ケアマネとの連携も
家族の安心に
家族が安心できるかどうかは、訪問看護師やケアマネージャーといった多職種チームの対応力にも大きく左右されます。
承継時には、関係者との連携方法や役割分担についても後継医師と共有し、関係性を維持できるようにしておきましょう。医師だけではなく、チーム全体として「変わらない安心」を提供する姿勢が大切です。
訪問診療・在宅医療
クリニックにおける
第三者承継の成功例
同じ分野に注力している
医療法人が買い手となった例
(東京都23区内)

2つのクリニックを運営する医療法人の院長は、そろそろ勇退を考えているが、後継者がいない。自身が元気なうちに承継するため、第三者承継を検討。
年間売上が減少傾向にあるうえ、外来診療の売上割合は全体の3割程度と低め。訪問診療に力を入れたい候補先でなければ承継が難しい。
診療は院長と配偶者が中心に行ってきたため、承継後は新たな看護師の雇用が必要。
クリニックの建物には薬局や他診療科目のクリニックが入っており、地域の認知度が高い。 敷地内には介護付き高齢者住宅があるため、訪問診療において増患できる可能性がある。 候補先である医療法人が「訪問診療と外来診療の両方に力を入れたい」と意思を示したことから、院長も安心して承継できた。
専門分野の異なる医師が承継した例
(神奈川県秦野市)

・皮膚科医
35年以上の実績をもつ内科・小児科・皮膚科クリニックの院長は、77歳での勇退を希望。自らがつくりあげた医療現場を若い医師に任せたいと考え、第三者承継を検討。
院長自身に第三者承継に関する知識がないため、漠然とした不安がある。
候補先は泌尿器科で実績を積んできた医師。地域医療への貢献のため第三者承継に興味をもっており、実家からのアクセスが良いことに縁を感じ、
院長・候補先ともにお互いをリスペクトできる関係性を構築できた。
内科・小児科・皮膚科を泌尿器科のスペシャリストが承継することになるため、既存患者には戸惑いの声もあったが、院長が事前に患者さんに説明をしたことで、承継後も経営は順調。
訪問診療・在宅医療クリニックの承継では、患者本人だけでなく家族や施設、ケアチームとの信頼関係をいかに引き継ぐかが大きな課題です。オンコール体制や連携事業者との関係、非常勤医師の継続勤務など、属人的な要素を「見える化」し仕組みとして整えることで、後継者が安心して診療を引き継げる環境を整えることが承継成功のカギとなります。

SAコーポレーション
12年クリニック運営を経験し、その後M&Aを行った宮﨑医師が、自分自身の経験をもとに、「医師が満足できる、幸せになれる医業承継を実現したい」とSAコーポレーションを設立。
十分な準備期間を経て、クリニックの価値を上げたうえで行うM&Aを提唱し、その情報発信やサポートを行っています。
