クリニック経営の収益改善
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この記事でわかること
- クリニック経営において収益改善が不可欠とされる理由と、その経営上の位置づけ
- 利益が損なわれている箇所を特定するために必要な月次KPIの確認方法
- 売上拡大のための4つの具体策|デジタル化・自費診療の導入・再診率の向上・在宅診療
- 医療の質を維持しながら固定費を削減するためのコスト見直し法
- 診療報酬改定や医療DXの潮流を収益改善の好機として捉える視点
なぜ収益改善が必要なのか?
現代の医療経営を取り巻く環境は、診療報酬の伸びが停滞する一方で、人件費や光熱費、医薬品費といった諸物価の上昇が止まらないという厳しい局面にあります。このような状況下では、例え患者数が維持されて収入が横ばいだったとしても、膨らみ続けるコストに経営が圧迫され、帳簿上の数字とは裏腹に手元のキャッシュが着実に目減りしていくことになります。「患者が来院してくれているうちは安心だ」という受け身の姿勢で経営を続けていると、数年単位のスパンで見れば、いつの間にかキャッシュフローが逼迫してしまうケースも決して珍しくありません。
本来、収益改善への取り組みは、単に利益を追求するためだけに行うものではないはずです。むしろ、それは地域の患者に対して継続的に医療を提供し続けるための不可欠な防衛策と言えるでしょう。クリニックが財務的な安定基盤を確立することこそが、長期にわたって良質な診療を届けるための土台になるからです。
本記事では、この重要な収益改善のアプローチを「売上を増やす」「コストを見直す」「持続的な仕組みを構築する」という3つの視点から体系的に解説していきます。
どこで利益が漏れているのか現状把握する
収益改善の第一歩は、何よりもまず「自院の数字が今どのような状態にあるか」を正確に把握することから始まります。月次試算表を確認する際には、利益が漏れている箇所を特定するための手がかりとして、まずは「患者数」「1人あたり診療単価」「人件費率」「家賃・リース等の固定費比率」という4つの基本指標に注目してみましょう。これらを確認するだけで、経営上の課題がおおよそ浮き彫りになってきます。
収益が伸び悩んでいるクリニックには、いくつかの典型的なパターンが存在します。
ひとつ目は、十分な患者数は確保できているものの、診療単価が伸びていないケースです。このケースは、慢性疾患の患者へのフォローが不十分であったり、算定可能な加算を見落としていたりする場合に多く見られます。来院数は多いのに手元に残る収益が少ないと感じるなら、まずはこの「単価の漏れ」を疑ってみるべきでしょう。
ふたつ目は、診療単価は維持できている一方で、固定費が経営を圧迫して利益を削り取っているケースです。特に人件費率や家賃比率が適正水準を上回っていると、いくら売上を上げても利益として残りにくくなってしまいます。
具体的な収益改善の施策を講じる前に、少なくとも月に一度はこれらのKPIを定点観測する習慣を身につけることが極めて重要です。「なんとなく経営は回っている」という主観的な感覚だけでは、数字の裏に隠された落とし穴を見過ごしてしまう恐れがあるからです。
財務管理の基本や収益改善に向けた具体的な視点については、以下の解説動画も参考になります。
売上アップのための施策とは?
収益改善を実現するための第一の軸は、やはり売上そのものを引き上げることにあります。一見、保険診療には点数という高い制約があるように思われますが、運用の工夫次第で診療単価や来院数を向上させる余地は十分にあります。
予約・問診のデジタル化
Web予約やWeb問診を導入することは、予約忘れや当日の突発的なキャンセルを未然に防ぐ有効な手段となります。事前に問診を済ませておくことで診察室での確認事項も絞られることから、1人あたりの診察時間の短縮にもつながるでしょう。
診察時間の短縮から患者の回転率が上がれば、限られた診療時間内でもより多くの対応が可能となり、結果として収益の底上げが期待できます。患者にとっても、待ち時間の短縮という大きなメリットが生まれます。
自費診療・オプションメニューの導入
保険診療の枠組みを損なわない範囲で、自費診療メニューを段階的に取り入れることも検討します。たとえばシミ治療やAGA治療、各種予防接種、点滴療法など、地域のニーズに合わせて自費診療の選択肢を広げてみましょう。
ただし、自費診療の導入の是非は感覚に頼るのではなく、数字に基づいて冷静に判断しなければなりません。過大な設備投資や在庫リスクを回避するためにも、あらかじめ「想定単価×見込み件数」による収支シミュレーションを行い、採算が取れると判断できた場合にのみ着手するというスタンスをおすすめします。
再診率・継続率の向上
一度来院してくれた患者が、その後も継続して通ってくれる仕組みを整えることは非常に重要です。なぜなら、既存の患者を維持することは新規集患よりもコストがかからず、かつ安定した収益に直結するからです。
例えば、慢性疾患を抱える患者に対して、診察の最後に次回予約を取る流れをルーティン化するだけでも、再来院率は大きく変わります。また、リコールはがきやLINE配信を活用した定期的なフォローアップを行うことも継続通院には効果的です。
在宅・訪問診療の活用
高齢化が進む地域においては、通院が困難となった患者への訪問診療ニーズが高まっています。この需要に応える形で在宅診療も取り入れれば、外来のみでは得られない診療報酬点数を着実に積み上げることが可能になります。
最初から全面的に訪問診療へ移行するのではなく、既存の外来診療を軸に据えつつ、週に数回程度の訪問を組み合わせる形からスタートすれば、現場に過度な負担をかけることなく収益の柱を増やしていけるでしょう。安定した紹介を受けるためには、地域の連携室や居宅介護支援事業所と良好な関係を築いておくことも大切です。
コスト重視の施策
売上を伸ばす施策と並行して、支出の構造を見直すことも収益改善の重要な柱です。ただ削るのではなく、経営に必要なコストを見極めながら進めることが基本姿勢になります。
人件費の見直し
人件費は、クリニック経営における固定費の中でも非常に大きな割合を占める項目のひとつです。そのため、収益改善を考える上では、まず患者数の変動に合わせた適切なシフト設計を見直すことが重要になります。具体的には、曜日や時間帯ごとの来院者数を正確に把握し、混雑時とそれ以外の時間帯でスタッフ配置をきめ細かく調整するだけでも、人件費の削減につながる可能性があります。
また、受付業務や会計処理といった定型的な作業にITツールを導入し、自動化を進めることも検討すべきでしょう。
様々な工夫を通じて業務効率を高めれば、スタッフが本来注力すべき専門業務に集中できる環境、および無駄な超過勤務が発生しにくい組織構造が構築されます。
仕入・在庫・リースの見直し
薬剤や消耗品の仕入先を定期的に見直すことは、医療の質を落とさずにコストを抑える有効な手段です。また、既存の仕入れ先を維持する場合であっても、発注単位をまとめるなどの工夫によって仕入単価を下げられる可能性があります。
加えて、導入当初は必要不可欠だったリース契約も、現在の利用実態にそぐわなくなっている可能性があるので、改めて見直しをしてみましょう。単に「使用しているか」という視点ではなく「現在の収益にどの程度貢献しているか」を基準に契約を棚卸しすることが大切です。
光熱費・ITコストの最適化
電気や通信の契約内容は、一度見直して最適なプランへ切り替えるだけで、その後の固定費を継続的に削減できる可能性があります。特に電力に関しては、自由化以降に多様なプランが登場しているため、自院の使用状況に合わせた契約変更を検討する価値は十分にあるでしょう。
また、IT環境の整備においてもコストを最適化する余地は残されています。例えば、従来のオンプレミス型システムからクラウドサービスへの移行を検討してみるのも一つの手です。そうすることで、高額な初期投資を抑えつつ日々の運用コストを平準化できる場合があります。
一つひとつの削減額は小さく見えても、複数の固定費を継続的に見直していく積み重ねが、最終的には経営改善効果となって表れます。
「節約」ではなく「経営設計型コストダウン」
コスト削減というと、一般には「ありとあらゆる支出を切り詰める」というイメージがあります。しかし、患者の満足度を支える設備投資やスタッフの定着に寄与する待遇改善など、安易に削るべきではないコストも存在します。
大切なのは、「そのコストが売上や医療の継続性にどう寄与しているか」を深く洞察し、残すべき投資と見直すべき浪費を明確に切り分けること。単なる我慢や切り詰めではなく、コストの「使い方」を設計し直すという発想こそが、持続可能な経営改善の土台となります。
改定・環境の変化を利用する収益改善
診療報酬改定や医療DXといった大きな潮流に対して受け身の姿勢でいると、単なるコスト増や業務負担の増加として映るかもしれません。しかし、自院の置かれた状況に照らし合わせたうえで、活用可能な制度を戦略的に選択して取り入れることができれば、それは逆に強力な収益改善の後押しとなります。
2026年度の改定においても、オンライン診療の適切な評価や電子処方箋の普及促進、さらには在宅医療に関連する点数の整備など、デジタル化と地域完結型医療を推進する方向性がより鮮明になりました。もちろん、これらはすべてのクリニックが一律に対応を迫られるものではありません。しかし、自院の標榜科や地域の医療ニーズに合致した項目を選択的に導入すれば、現場の負担を抑えつつ自然な形での収益改善ができます。
例えば、高齢患者が多い内科クリニックであれば、在宅医療に関する評価を積極的に活用してみると良いでしょう。あるいは、慢性疾患の管理が中心のクリニックであれば、継続管理に関する加算の算定漏れを丁寧に再点検するだけでも収益構造に変化が現れる可能性もあります。
制度の変化を外部から受ける「圧力」として捉えるのではなく、「自院の強みを再定義し、かつ、その強みを発揮するための絶好の機会」としてポジティブに捉え直す視点こそが、中長期的な経営の安定化へとつながります。
収益改善への取り組みは、一度施策を講じれば完了するという性質のものではありません。むしろ、毎月欠かさずKPIを確認し、数字のわずかな変化やズレを敏感に察知して早期に対応を打つ、という地道な積み重ねこそが経営の安定を形作ります。まずは患者数や診療単価、人件費率など、経営の基軸となる指標を定点観測する習慣を根付かせてみてください。
また、こうした経営判断をすべて院内だけで完結させようとせず、時には税理士や医療経営の専門家といった外部の客観的な視点を取り入れることも有効です。第三者の目が入ることで、日々の多忙な診療業務の中ではどうしても見落としがちだった課題が鮮明に浮かび上がってくることも少なくないからです。
収益改善の本質は、一時的な利益の積み増しではなく、健全な経営を「継続」させることにあります。まずは数字を直視することから始め、持続可能なクリニック経営への第一歩を踏み出してみましょう。
SAコーポレーション
12年クリニック運営を経験し、その後M&Aを行った宮﨑医師が、自分自身の経験をもとに、「医師が満足できる、幸せになれる医業承継を実現したい」とSAコーポレーションを設立。
十分な準備期間を経て、クリニックの価値を上げたうえで行うM&Aを提唱し、その情報発信やサポートを行っています。


