赤字クリニックの売却について
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この記事でわかること
- 赤字クリニックが増加している構造的な背景と開業医特有の財務課題
- 赤字でも売却・承継が成立するための資産価値評価のポイント
- 売却時に押さえておくべき税務の基礎知識と早期対応の重要性
- 準備から買い手探し・交渉クロージングまでの売却ステップ
- 売却後の資金活用の考え方と失敗リスクを回避するための対策
赤字クリニックの現状と売却検討のポイント
昨今の診療報酬改定や人件費の高騰、さらには地域社会における人口減少といった構造的な変化により、開業医の約3割が赤字経営を余儀なくされているといわれています。一般社団法人日本病院会の調査によれば、2024年度に医業利益が赤字となった病院は全体の69.0%(※)。医療機関が直面する経営環境は、年々厳しさを増しているのが実情です。
特に50代以降の先生方においては、長年地域医療に貢献してきた自負がある一方で、後継者不在の問題や自身の体力的な限界から、経営の継続に不安を感じる場面も増えています。こうした背景から、クリニックの「売却」という選択肢を具体的に検討し始めるケースは決して珍しくありません。
「赤字経営のままでは買い手がつかないのではないか」と懸念される声も多く聞かれますが、決して諦める必要はありません。赤字の状態であっても、適切な準備を進め、専門家による戦略的なサポートを受ける前提ならば、円滑な譲渡・承継を実現できる可能性は十分にあります。まずは現状を正しく分析し、早期にアクションを起こすことが納得できるリタイアと事業承継への第一歩となります。
赤字クリニックの現状分析
赤字を招く3つの構造的な要因とは
昨今のクリニック経営において、赤字を招く背景には、診療報酬改定・人件費の高騰・患者数の減少という3つの要因が複合的に絡み合っています。
医療機関にとっての収益の柱は診療報酬ですが、これは国が定める公定価格であるため、経営努力だけで自由にコントロールすることはできません。診療報酬改定のたびに、収益構造が圧迫されるリスクがあると言っても良いでしょう。
これに加え、医療従事者の確保を巡る競争は激化の一途をたどっています。仮に人材を確保できたとしても、人件費が収益を上回ってしまうケースは少なくありません。
また、高齢化が進む地域では、来院数こそ維持できる可能性があるものの診療単価の低い患者層が多く、現場の忙しさと利益が伴わないという構造的な課題があります。
赤字でも価値はある-売却前に整理すべき資産とは
売却を考える際にまず押さえたいのが、自院の資産価値の全体像です。
不動産・医療設備・患者基盤(来院者数・継続通院率など)は、たとえ経営が赤字であっても、買い手にとって重要な評価材料。特に長年通い続けている患者層の厚さは、承継後の収益見通しに直結するため、買い手側が高く評価する傾向があります。
財務上の赤字のみで売却を諦めず、まずは専門家に相談しながら自院の強みを棚卸しすることが、適切な価格での成約につながります。
売却時の税務は早めの確認が欠かせない
クリニックの売却を実行に移すにあたっては、税務面への備えも欠かせません。
個人クリニックの事業譲渡においては、譲渡価格と資産の帳簿価額との差額が課税対象となりますが、赤字が続いていた場合には譲渡損失として処理できるケースも存在します。一方で医療法人の場合は、持分の譲渡や法人解散時の資産処理といった手法によって税負担の仕組みが大きく変わるため、どのスキームを選択するかが手残りの資金に直結します。
いずれの形態であっても、売却の意思を固めてから動くのではなく、早い段階で税理士やM&Aの専門家に現状を診断してもらうようにしましょう。
売却成功へのステップ
赤字経営が続くクリニックであっても、正しい手順を踏むことで売却の可能性は十分に開かれます。事前の準備から買い手探し、そして最終的な条件交渉という3つの段階を着実に進めることが、納得できる事業承継へとつながります。
財務の整理と専門家選定から売却準備は始まる
まず取り組むべきは、財務諸表の整理です。過去3年分程度の損益計算書や貸借対照表を揃え、売上の推移や費用構造を客観的に示せる状態にしておくことで、買い手が事業の実態を把握しやす状態にしておきましょう。
並行してM&A仲介会社と税理士を早めに選定し、事業価値の算定を依頼します。専門家による適正なバリュエーション(価値算定)を経ることで、交渉の土台を強固なものにしましょう。
非公開情報も活用して買い手の幅を広げる
買い手候補としては、新規開院を目指す若手医師や、医療モールを運営する企業、あるいは拠点拡大を図る医療法人などが想定されます。地域医療の継続を重視する相手であれば、たとえ現状が赤字であっても、立地や設備などのポテンシャルを評価して前向きに検討してくれる可能性があるでしょう。
一般には流通しない非公開の案件情報やM&A仲介会社のネットワークを駆使すれば、自院の条件に合致する最適なパートナーと出会える可能性は大きく広がります。個人で買い手を探すには限界があるため、プロのネットワークを戦略的に活用することが重要です。
交渉段階で地域医療の継続を条件に落とし込む
最終的な交渉やクロージングの段階では、譲渡価格だけでなく、契約の中身を細部まで丁寧に詰めなくてはなりません。赤字の補填に関する取り決めはもちろん、スタッフの雇用維持、そして何より地域診療を途絶えさせないための条項を契約書に明記しておくことで、承継後のトラブルを未然に防ぐようにしましょう。
特に、「地域医療の継続」を確約する条項を盛り込むことは、売り手と買い手の双方にとって、共通の理念を確認するための重要なプロセス。先生が長年守り続けてきた医療を次世代へ確実に託すためにも、この段階での合意形成には時間をかけて丁寧に行うべきです。
売却後の資金活用とリスク対策
クリニックの売却が成立した後は、受け取った資金をどう活用するかが次の大きなテーマになります。
売却益の受け取り方は、一括と分割払いの2通りあります。一括の場合は手元に資金が入るというメリットがあるものの、まとまった譲渡所得税が発生する可能性があります。一方で分割払いの場合は、年ごとの課税額を分散できるケースもあるため、税理士と連携して事前に試算しておくようにしましょう。
売却後の資金の使途としては、老後の生活資金として安定的な運用に回すだけでなく、たとえば所有する不動産を活かした賃貸業への転換や、長年の臨床経験を武器に医療コンサルタントとして後進を支える道を選ぶ先生も見受けられます。第三者承継によって得た対価をセカンドライフの基盤とし、地域医療への貢献は別の形で続けるという選択肢は、今後ますます現実的で前向きなものになっていくでしょう。
一方、売却には失敗リスクも伴います。たとえば、財務内容の不備や開示不足によって事業価値が低く評価されたり、契約後に予期せぬトラブルが露呈したりするケースです。こうしたリスクを回避するためには、売却前のデューデリジェンス(事前調査)を丁寧に実施し、表明保証や補償条項を含む契約書の内容をしっかり精査することが不可欠。信頼できる専門家のサポートを受けながら、一つひとつの手続きを丁寧に進めることが、最終的に後悔のない円満な承継へとつながります。
赤字経営を漫然と継続することは、クリニックの存続を危うくするだけでなく、結果として地域医療に空白を生じさせてしまうリスクを生むこともあります。だからこそ、売却や承継という選択は決して後ろ向きな「諦め」ではなく、むしろ、長年守り続けてきた診療の灯を次の担い手へと託し、先生ご自身も経済的な見通しを立てた上で、新たな人生のステージへと歩みを進めるための前向きな決断といえます。
「赤字経営だから売却は無理だ」と思い込まず、まずは信頼できる専門家への相談や客観的な資産査定から一歩を踏み出してみてください。検討を始めるタイミングが早ければ早いほど、提示できる条件や買い手候補の選択肢は着実に広がります。
SAコーポレーション
12年クリニック運営を経験し、その後M&Aを行った宮﨑医師が、自分自身の経験をもとに、「医師が満足できる、幸せになれる医業承継を実現したい」とSAコーポレーションを設立。
十分な準備期間を経て、クリニックの価値を上げたうえで行うM&Aを提唱し、その情報発信やサポートを行っています。


