医療法人M&Aとは?出資持分譲渡・事業譲渡の仕組みと失敗しない事業承継のポイント
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この記事でわかること
- 医療法人M&Aの基本的な仕組みと一般企業のM&Aとの違い
- 「持分あり・持分なし」による医療法人M&Aのスキームの違い
- 出資持分譲渡・事業譲渡など、医療法人の主な承継方法
- 医療法人M&Aを成功させるための実務プロセスと重要なポイント
- 後継者不在による廃業を避け、地域医療を次世代につなぐ「イグジット経営」の考え方
- 患者・スタッフ・地域医療を守りながら進める第三者事業承継のポイント
地域の診療を途絶えさせない「イグジット経営」という選択肢
50代を迎えた開業医にとって、診療を続けながら将来の承継方法を考えることは大きな課題です。親族や後継者が見つからず、閉業を選ばざるを得ないケースもあります。そこで注目されるのが、第三者への承継を通じて地域医療を次世代につなぐ「イグジット経営」という選択肢です。ここでは開業医が直面する苦悩とイグジット経営の考え方について解説します。
50代開業医が直面する承継の苦悩と閉業リスク
50代を迎えた開業医は、日々の診療を続ける一方で、体力の衰えや「いつまで現役を続けられるのか」といった将来への不安を抱えやすくなります。特に深刻なのが後継者の不在です。子どもが医師ではない、親族に承継する意思がないなどの理由から、廃業を選択せざるを得ないケースもあります。しかし、閉業すれば、長年通ってくれた患者が新たな医療機関を探さなければならず、地域医療に大きな穴を開けることにもなります。「自分の代で診療を終えてよいのか」という葛藤を抱える医師にとって、承継は経営だけでなく、患者や地域への責任にも関わる重要な問題です。
「譲渡=手放して終わり」ではない「イグジット経営」の考え方
「イグジット経営」とは、事業を譲渡して単に資産を現金化したり、利益を確定させたりすることだけを目的とした考え方ではありません。これまで築いてきた診療所の価値や、医師として大切にしてきた志、患者との信頼関係、地域に根付いた診療体制を第三者へ引き継ぐことも重要な目的です。後継者が見つからない場合でも、適切な譲受先を見つけることで、患者が安心して通い続けられる環境を守れます。自らの役割を次の世代へリレーし、地域医療を未来へつなぐ「前向きな経営戦略」として、イグジットを捉えることが大切です。
医療法人 M&A(第三者事業承継)の価値
医療法人M&A(第三者事業承継)は、親族や身内に後継者がいない場合でも、医療機関を存続させるための有効な選択肢 です。例えば、地域医療への思いや診療方針を理解する若手医師や医療グループへ事業を引き継ぐことで、これまで築いてきた患者との信頼関係やスタッフの雇用、地域に必要とされる医療機能を守ることにつながります。また、譲渡後も一定期間、引き継ぎや診療面で関わるなど、段階的な承継を検討できる場合もあります。医療を次世代へ託しながら、自らも納得できる形で現役を退き、セカンドライフへ移行できる点が第三者承継の大きな価値です。
一般企業とはここが違う!医療法人 M&Aの基礎知識と制度的特徴
医療法人M&Aは、株式を売買して経営権を移転する一般企業のM&Aとは仕組みが大きく異なります。医療法人には非営利性を前提とした制度があり、株主や株式という概念も存在しません。そのため、承継を進めるには医療法人特有の制度や権利関係を理解することが重要です。ここでは、一般企業との違いや医療法人M&Aの基本的な仕組みについて解説します。
営利性の排除(非営利性)と株主概念の不在
医療法人M&Aを理解するうえで重要なのが、一般企業とは異なる「非営利性」です。株式会社では、株式を取得することで議決権や経営権を得て、実質的なオーナーになることができます。一方、医療法人には株式会社のような株主・株式の概念がなく、株式を買収して経営権を取得する仕組みではありません。また、医療法人は医療法上の非営利法人として、社員への剰余金の配当が禁止されるなど、一般企業とは異なる制度上の制約があります。そのため、医療法人M&Aでは、法人の持分や社員・役員の構成などを踏まえて承継方法を検討する必要があります。
経営権移転の本質は「社員・理事長の交代」
医療法人M&Aにおける経営権の移転は、株式会社のような株式の譲渡ではなく、「社員」と「理事長」などの交代を通じて行われます。医療法人では、社員総会が法人の重要事項を決定する機関であり、まず社員(構成員)の構成を変更することで、法人の意思決定体制を次の経営者へ引き継ぎます。理事・理事長についても、定款や医療法上のルールに沿って選任・変更の手続きを行います。このように、社員総会や理事会における手続きを通じて経営体制を整え、実質的な経営権を移行させることが医療法人M&Aの基本です。
個人クリニックの買収(事業譲渡)との決定的な違い
個人クリニックと医療法人では、M&Aによる承継の仕組みが大きく異なります。個人院の場合、開設者である医師が変わると、原則として既存の開設許可をそのまま引き継ぐことはできず、いったん廃院手続きを行ったうえで、後継者が新たに開設する必要があります。一方、医療法人の場合は、法人格そのものを承継する形で経営体制を変更できるため、個人院と比べて行政手続きを簡素化できる可能性があります。また、法人名義の契約や各種許認可などを維持しやすい点も大きな違いです。ただし、許認可の種類や自治体によって必要な手続きが異なるため、事前の確認が重要です。
「持分あり・持分なし」でどう変わる?医療法人 売却・譲渡の主要スキーム
医療法人のM&Aでは、法人の「持分あり・持分なし」の区分によって、経営権の移転方法や譲渡の進め方が異なります。また、法人そのものを承継するのか、診療所などの事業だけを譲渡するのかによっても必要な手続きは変わります。ここでは、持分の有無によるM&Aの違いと、代表的な譲渡スキームについて解説します。
持分あり 医療法人 M&A(出資持分譲渡スキーム)
「持分あり医療法人」のM&Aでは、出資者が保有する「出資持分」を買い手へ譲渡することで、法人の承継を進める方法があります。持分あり医療法人は、2007年(平成19年)4月1日以降、新たに設立することが認められていないため、現在対象となるのは主にそれ以前に設立された経過措置医療法人です。出資持分を譲渡することで、法人が保有する資産や事業を含めて承継できる点が特徴です。また、譲渡対価を出資者個人が受け取れるため、一定の条件下では譲渡益という経済的リターンを得やすいこともメリットです。手続きが比較的シンプルであることから、医療法人M&Aで広く活用されているスキームです。
参照元:厚生労働省( https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000106957_14.pdf)
持分なし 医療法人 M&A(社員総会・理事会交代スキーム)
持分なし医療法人M&Aでは、出資持分そのものが存在しないため、持分を買い手に譲渡して経営権を移すことはできません。そのため、社員総会で社員(構成員)を交代させ、あわせて理事・理事長などの役員を変更することで、実質的な経営権を承継します。一方、持分の譲渡対価という形で売り手に金銭を支払うことができないため、対価の設計には注意が必要です。例えば、適切な要件のもとでの役員退職金の支給や、基金制度を採用している法人における基金の返還などが考えられます。法的・税務的な取り扱いを踏まえ、専門家と慎重にスキームを設計することが重要です。
事業譲渡スキーム
事業譲渡スキームは、医療法人そのものを承継するのではなく、特定の診療所・分院や介護事業部門など、対象となる事業を選択して引き継ぐ方法です。法人全体を譲渡する必要がないため、売り手側が不要な資産や負債を切り離したうえで、今後も継続したい事業だけを譲渡できる点が特徴です。また、複数の事業を展開している医療法人が、一部事業のみを第三者へ承継し、残りの事業を整理・継続したい場合にも活用できます。ただし、事業に必要な許認可や契約、従業員の雇用関係などを個別に確認し、必要な手続きを進める必要があります。
医療法人 M&Aを成功させる実務プロセスと押さえるべきポイント
医療法人M&Aを成功させるには、単に譲渡先を探して条件を交渉するだけでは不十分です。自院の法人形態や財務・経営状況を正確に把握したうえで、診療理念や地域医療への考え方が合う譲受先を選ぶことが重要です。ここでは、医療法人M&Aを円滑に進めるための実務プロセスと、各段階で押さえておきたいポイントを解説します。
STEP1:自院の正確な現状把握と「持分あり・なし」の確認
まず自院がどのような医療法人なのかを正確に把握します。特に重要なのが、定款や関係書類を確認し、「持分あり」か「持分なし」かを判定することです。持分の有無によってM&Aのスキームや経営権の承継方法が異なるため、早い段階で確認しておく必要があります。あわせて、財務諸表などから法人の資産・負債、収益状況、含み損益などを整理し、企業価値を把握します。設立から現在までの法人の歴史、地域で担ってきた医療機能、患者層、スタッフ体制なども棚卸ししておくことで、自院の強みや承継時に守るべき価値を明確にできます。
STEP2:理念と地域志向が合致する譲受先(医療グループ・若手医師)の選定
STEP2では、譲受先を選定します。譲渡価格だけを基準にせず、自院の理念や診療方針を引き継いでくれる譲受先を選定することが重要です。特に、医療グループや若手医師など、地域医療への貢献意欲があり、これまで築いてきた患者との信頼関係を大切にできる相手とのマッチングが求められます。また、現スタッフの雇用維持や勤務環境、診療体制をどこまで継続できるかも重要な確認事項です。売り手にとって最も高い価格を提示する相手が、必ずしも最適な譲受先とは限りません。M&A後も患者・スタッフ・地域医療を守れるかという視点から、条件を総合的に比較することが大切です。
STEP3:医療法に基づく行政手続きと引き継ぎの実施
STEP3では、医療法や定款に基づく行政手続きを適切に進めます。承継内容に応じて、都道府県などへの役員変更届や定款変更認可申請などが必要となる場合があるため、所管行政庁に必要な手続きを事前に確認し、余裕を持ったスケジュールを組みます。また、手続きと並行して、患者やスタッフへの告知も丁寧に行う必要があります。診療方針や勤務条件など、変更される事項について十分に説明し、必要に応じて個別面談の機会を設けることで、不安や混乱を抑えながらスムーズな経営移行を目指します。
まとめ
医療法人M&Aは、単に経営権や事業を譲渡する手段ではなく、これまで築いてきた診療体制や患者との信頼、地域医療を次世代へつなぐ「イグジット経営」の選択肢です。後継者不在や体力面への不安を抱えたまま廃業を選ぶのではなく、早い段階からM&Aを視野に入れて準備することが大切です。実際の承継では、医療法人特有の法務・税務・行政手続きが伴うため、専門コンサルタントなどと連携し、院長・患者・スタッフ・譲受先・地域のすべてにとって納得できる持続可能な承継を目指しましょう。
SAコーポレーション
12年クリニック運営を経験し、その後M&Aを行った宮﨑医師が、自分自身の経験をもとに、「医師が満足できる、幸せになれる医業承継を実現したい」とSAコーポレーションを設立。
十分な準備期間を経て、クリニックの価値を上げたうえで行うM&Aを提唱し、その情報発信やサポートを行っています。


